うずらのたまご ~少年時代~
小学生の頃、俺は給食の時間が楽しみだった。
毎日献立を眺めては、好きなおかずの日は朝からテンションが上がったものである。
家の食卓には決して上がる事のないようなメニューなど、それは給食だけの特別なものであった。
その中でもまあまあ地味なメニューではあるが、五目春雨スープ(?)というのがあった。
まあそれ自体が特別好きというわけではなかったのだが、その中の具材のうずらのたまごが好きだった。
遠足や運動会などのイベントがある時など、たまに弁当に入っていたような記憶もあるが、それでもあまり家の食卓でお目にかかる事はなかったと思う。
とにかく給食当番がクラス全員に行き渡るように配分を考えながら(1人1個づつ)、上手にお椀に盛って行くというのは、なかなか小学生には至難の業であったはずだ。
たまに間違って2、3個入ってたりすると、先生に没収されて、入ってない子に廻された。
基本俺は、好きなものは最後まで取っておくタイプなので、当然うずらのたまごは最後まで残しておいた。
いよいよ、うずらのたまご以外にもう食べられる物などは残っていない状態になり、ようやく俺はうずらのたまごを口に入れた。
『ああ…、このままうずらのたまごを噛んで飲み込んじゃうのは勿体ない…。』
そんな風に思った俺は、そのままうずらのたまごを噛まずに舐めておく事にした(←あほ)
給食が終わり昼休みになると、俺たちはいつものように校庭でドッチボールを始めた。
ドッチボールをやりながらも、俺の気持ちはうずらのたまごに集中していた。
とにかく下手におしゃべりしたり、大声を出してうずらのたまごが破壊しないように、出来るだけクールを装ってボールを回していたのだ。
『このまま上手く行けば5時間目までうずらをキープ出来るかもしれない…』
そんな事を考えるとなんだかワクワクした。(←あほ)
一方で、このままいつまでも口の中で温めてたら、うずらのヒナが孵ってしまうのではないか?などと考えたら(←更にあほ)、ちょっと気持ち悪くて吐きそうになった。
そんなこんなでよだれをすすりながらも、俺はドッチボールそっちのけでうずらのたまごをキープしていたのだが、遂に逃げまくっていた俺目がけて強烈な火の玉ボールが放たれたのだった。
『えいっ!!』
うずらに気を取られて油断しまくりの俺は、受け止め切れずにボールを落としてしまった。
『うっ…❗️』
その時、火の玉ボールを胸に当てた反動で、口の中からうずらのたまごが飛び出してしまったのだ。
それはまるでウミガメの産卵のようであった。
なんてこった。
俺の大切なうずらのたまごは、無常にも砂まみれになりながら転々と転がって行った。
『こんな事なら給食の時間にとっとと食べとくべきだった…。』(心の声)
即座に拾って水飲み場に走るという手段もあっただろうが、さすがにそこまでする事でもないこと位あほな俺でもわかっていた。
月日は流れ…
オッサンになった今でも、俺はうずらのたまごが入った中華丼やあんかけ焼きそばの類が大好物である。
そして今でも、うずらのたまごを最後に取っておくのだ。
嫁さんは知ってて、『食べないの?』と言いながらそのうずらのたまごを横取りしようとする。
『フフッ…』と50を過ぎた俺は余裕の笑みを浮かべながら、最後にゆっくりとうずらのたまごをいただくのだ。
その味を噛み締めながら思い出すのは、あの校庭の匂いと少年だった頃の友人達の無邪気な笑顔である。