俺は昔っから『きゅうりのキューちゃん』が大好きだ。
小学生の頃、夏の野外活動で海水浴に行った。
大して泳げもしないのに沖の方まで出て仲間達と波に飲まれた。
泳ぎの得意な友人に必死にしがみついてしまった為に仲間3人で溺れかけた。
大量の海水を飲み、鼻に塩の痛みを感じながらもなんとか浜辺まで戻る事が出来た。
そして安堵感と心地よい潮風に包まれながら食べたおにぎりの味は格別だった。
おにぎりの具はもちろん『きゅうりのキューちゃん漬け』だ。
隣で一緒におにぎりを頬張る友人の中身の具も『きゅうりのキューちゃん漬け』だった。
さっきまで共に溺れかけて必死だった事が嘘みたいに穏やかで、優しい時間が幸せだった。
あれから友人や彼女、家族、そして独りで、幾度となく砂浜を訪れ、そして潮の香りに触れて来た。
その度に思い出すのは、いつもあの夏の『きゅうりのキューちゃん漬け』のおにぎりの味なのだ。