週刊中年オッサンデー

中年おっさんの趣味や日々のくだらない話

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軍人将棋とバレンタインデー 〜悲しみは雪のように~

中学生の頃、軍人将棋というのが一時的に流行った事があった。

将棋はジジ臭くて嫌いだったが、軍人将棋には地雷やスパイなど斬新なネーミングの駒があったり、しかもその色がオレンジや黄色といったカラフルな物で親しみやすかった。

 

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基本、対戦相手以外に審判が必要なので、3人で遊べるのも良かった。

 

つい夢中になってしまい、自習時間中に軍人将棋をやっていたら担任の教師にバレて、思いきりぶん殴られた。

当時受験生だった事もあり、こっぴどく叱られたものである。

 

そんな中での、バレンタインデーの事だった。

モテない俺にはまるで縁のないイベントではあったのだが、もしかしたら…という期待感だけは人一倍持っていた。

 

何事もなく下校時間となり、荷物をカバンに仕舞おうと机の中に手を入れた…ら、

 

『❗️❓』

 

身に覚え(触り覚え?)のない角ばった箱が指先に触れた。

 

教科書やノート、筆箱などのいつも触り慣れた感触とはあきらかに違う感じ。

 

『こ、これはもしや...チョコ?!』

 

そう確信した俺は、誰にもバレないように手に触れたそのブツをそっと机の奥に押し込んだ。

 

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本当はスキップをしながら大声で走り回りたいくらい舞い上っていたのだが、

とにかく何事もなかったかのように平静を装い、帰る準備をしてるフリをしていた。

 

『しかし、いったい誰がチョコレートを…?

俺の事をそんな目で見ていただなんて…もぉ、いやらしいわっ!』

 

などと訳の分からない事を考えていたら、いつの間にか顔がニヤケていくのが自分でもわかった。

 

てっきり俺は、ブスの女が呼びに来て、言われるがままに屋上に行ってみたら、そこで待ちぶせしてはにかんでいる女子にチョコを渡されるのだとばかり思ってたので(←TVドラマか漫画の見すぎ...)

 

『コッソリ机の中だなんて、誰か見てたらどうすんだよ!!』

などと考えたら、ますます俺の顔はだらしなく崩れていった。

 

しかし、ここで今俺がこの箱を公に取り出してしまったら、

きっと周りのモテないゲスどもが、

『ヒューヒュー♪』

と、はしたない奇声をあげて俺をもてはやすだろう。

 

そんな事にでもなれば、コッソリと俺の机に忍ばせてくれた彼女の立場がないではないか…。

と考えたジェントルマンの俺は、とにかく教室からギャラリーが消え去るのをしばし待つ事にした。

 

『フフッ....』

 

既に男の勲章を手に入れている俺は、余裕のよっちゃんの笑みを浮かべながら、

平民たち(クラスメイト)が教室から去るのを暖かい眼差しで見送っていた。

心の中では既にもう1人の俺が、リオのカーニバル状態で踊り狂っている事を誰にも悟られないように....。

 

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♪ ドンドンドドン ドンドンドドン ピーーー ドンドンドドン ♪

 

 

そうこうしていると、友人達はもう既に帰り支度を整えて、俺の席へと集まって来た。

なんだか、チョコ1つ貰えていない友人達が哀れに思え、同時に何故だか急に幼く見えた。(←すでに上から目線)

 

そうだ、この哀れな仲間たちの目の前で、

『こんなん入ってましたけど〜』

ってな感じで、チョコをお披露目しちゃおう!!

 

心がうす汚れてしまった俺は、この時とばかりに勝ち誇りたくなったのだ。(←ゲス野郎)

そう決めた俺は、マジシャンのように俺の机の周りをグルリと囲ませ、そして満を持して角ばった箱を机の上に取り出したのだ!

 

『ジャジャ〜ン❗️❗️』

 

『…え?』

 

 

『あ、あれ…?!』

 

俺がもったいぶった挙句に覚悟を決めてさらけ出した箱は…

 

 

 

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そう、軍人将棋の箱だったのだ。

 

 

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『イヤ〜〜ン!!!!』

 

 

そうだった....。

あほな俺は、昼休み遊んだ後に自分の机にしまった事をすっかり忘れていたのである。

 

 

 

『お、やろうやろう!』

仲間の1人がおもむろにそう言い出した。

 

『よし、んじゃ俺審判ね!』

また1人、そう言いながらカバンを床に降ろし出す。

 

.......やりたくもない軍人将棋が始まる。

 

俺はもうそんな子供騙しの軍人将棋なんかやる気分ではなかったし、とにかく一刻も早く家に帰りたかった。

浜省の『悲しみは雪のように』を聴きながら1人で泣きたい…そんな気分だった。

 

俺は自分で勝手に(相手もいないのに)失恋して落ち込んでいたのである。

結局、自分で勝手に地雷を踏んで、スっパイ(失敗)しただけ...

そう....。

俺は軍人将棋にハマり過ぎた挙句、逆に軍人将棋にハメられてしまったのだ。(?)

 

その後、その事実を友人達に話すとその場は爆笑に包まれ、その話しは別にどうでもよくなった。

 

時は流れ…

50を過ぎた今でも、バレンタインデーが来るたびにその出来事を思い出してはほくそ笑んでしまうのだ。

 

♪ 誰もが泣いてる 涙を人には見せずに

 

♪ 誰もが愛する人の前を気づかずに通り過ぎてく

 

♪ 悲しみが雪のように積もる夜に