週刊中年オッサンデー

中年おっさんの趣味や日々のくだらない話

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こんなせつない恋を私は忘れないでしょう

俺が就職活動をしていた当時、日本の経済は未だバブルに湧いていた時代で、とにかく良い条件の会社にどんどん人材が流れていく中、3K(キタナイ、キツイ、キケン)と呼ばれる業種は人手不足に陥っていた。

今となってはそこから間違いだったのかも知れないけど、どういう訳か俺はその3Kと呼ばれていた業種をわざわざ選んで就職してしまったのである。

楽して給料を貰えた時代に、そんな業種を選んだ俺は周りからは変わり者のように言われた。

 

想像以上に過酷な労働は、月の残業が180時間を超えたこともあり、休日は丸ごと1ヶ月飛んでしまう事もあった。

仕事をしてただ寝て、鉛の様な体を起こしてまた仕事に行く...という繰り返し。

 

そんな毎日の中、唯一の心の支えは当時付き合っていた彼女の存在だった。

次の休みの日までを指折り数え、一日一日をクリアして行く...

ただそれだけを拠り所として、自分のモチベーションに変えて耐えしのんでいた。

 

しかし、ようやく訪れた休日も急な仕事に流されてしまい、

またそのカウントダウンは振り出しに戻ってしまうのだった。

 

仕事が終わるのが夜中の1時、2時の為、それから自宅住まいの彼女に会いに行ける訳もなく、彼女の休みの土日も朝から夜中まで俺は仕事だった。

そんなすれ違いの毎日に、俺のストレスは究極に膨らんでいったのだった。

 

そんな中、仕事の休憩の僅かな時間を見計らって彼女が1本のカセットテープを届けてくれた。

それは、当時人気の女性ロックバンド、プリンセスプリンセスの最新アルバムだった。

 

俺が昔女子高生バンドのヘルプでギターを弾いていた事があり、その時に何曲かプリプリの曲をプレイした事もあって、ビジュアルも含めて好きなバンドの一つだったのだ。

 

仕事終わりの車の中で、俺は早速そのカセットテープをかけてみた。

そして流れてきたのがこの曲だった。

  

ジュリアン あなたの笑顔は日ごとにそっと 

にじんでくのに逢いたさはただつのるばかりで 

 

あまりにも切ないメロディーに、思わず歌詞を聴き入った。

 

ジュリアン せめて夢の中 姿を見せて

あなたの事だけで心があふれてしまいそう 

  

気がつくと俺はそのまま車を走らせて、そして彼女の家に向かっていた。

 

何も出来ないままに時間だけが過ぎてゆく

あの夜にあなたとめぐり逢えたこと 

それだけで嬉しいけれど 

 

深夜2時のひと気のない国道を、俺はただひたすらアクセルを踏み込んだ。 

疲れと眠気でもうろうとしているはずなのに、頭の中が冴え渡るように真っ白になっていくのがわかった。

 

あいたくてあいたくて今夜も 

恋しくて恋しくて痛いほど

はりさけていく心知らずにあなたは 

今どこで眠るの 

 

静まり返った住宅地に車を滑り込ませると、いつも彼女を送る時に降ろす家から少し離れた場所に車を止めた。

 

その場所からは丁度フロントガラス越しに彼女の部屋が見えるのだが、当然灯りは落ちていた。

 

俺はほとんどオイルの残っていない100円ライターを数回擦りながら煙草に火をつけて、しばらくこのメロディーに耳を傾けながら、

ぼんやりと彼女の部屋を見つめていた。

 

秋の終わり、夜の深い闇の中、青白い月の光だけが彼女の部屋の窓をぼんやりと照らしている。

俺は車の窓から紫煙をくゆらせ、深く息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。

 

逢えるはずもない彼女の部屋の下に、今こうして居る自分

もうすぐ夜が明けてしまい、またいつもの日常が俺を急き立てようとすぐそこまで来ている。

 

どうしようもないやるせなさの中、俺は色んな事を頭の中で廻らせた。

 

こんな思いに耐えながらこの生活を続ける意味があるのか?

いったいその先に何があるのだろう?

 

全身から力が抜けていくのがわかった。

それまで必死に張り詰めていたものが、プツリと切れてしまった。

 

凛とした冷たい夜の風の中で、ひとすじの涙が俺の頬をかすめる。

どうしようもなく、胸が張り裂けるくらい切なくて、

なんだか悲しくて、やりきれなくて、

夜の闇に溶け落ちてしまうくらい、俺はひとり泣いた。

 

情けない、情けないよな

 

結局、その状況を変える事すら出来なかった俺は、その後すれ違いのまま彼女と別れてしまった。

 

こんなせつない恋を 私は忘れないでしょう 

 

時は流れて

オッサンになった今でもこの曲を聴くと、

あの頃の情景が蘇ってきて、なんだか胸が熱くなる。

もう戻れないから

やり直せないから

だからせつなくて余計に輝いて見えるのかもしれないな

 

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