Talk is Cheap トーク・イズ・チープ/キース・リチャーズ
昔から俺の周りには、『キースはギターが下手だ。』と罵る奴らが多かったのだが、キースのギターは上手いとか下手とかそんな次元ではない。
これは=ストーンズの演奏が下手と言われる事にも通じる事なのだが、この独特のグルーヴ感やセンス、そしてその生き様まで、とにかくわからん奴には何とでも言わせとけばいいのである。
そんなストーンズの虜になり、リアルタイムで新譜を手に入れたのは86年にリリースされた『ダーティーワーク』からなのであるが、この頃にはキースとミックの不仲から解散が噂されるようになる。
その後のミックのソロ活動により、解散がますます現実味を帯びてきた頃でもあった。
88年の3月にミックジャガーが単独で行った来日公演の際には、東京ドームに見に行った。当初はアルバムに参加したジェフベックも帯同するのでは?という噂も流れていたが、プライドの高いジェフベックが了承するはずはなく、実現はしなかった。
また、同時期にボ・ディドリーとのジョイントライブで来日していたロニーが飛び入りするのでは?という噂もあったのだが、実際に飛び入りしたのはティナ・ターナーだった。
今思うと、当時は大物が続々と来日公演を開催していた時代だった。
ウドーは凄かったな
さて、そんな中での御大キースリチャーズの初のソロアルバムである。
かねてからストーンズがあるのにソロを出す意味がない、と言いつづけてきたキースが、ミックのわがままとあまりにもがっかりなソロ活動に遂に堪忍袋の緒が切れた..といった感じだったのだろう。
同年の春に、ミックジャガーとロンウッドのそれぞれのライブを見て、ホンキートンクウーマンで盛り上がる観客を見て、ウンザリしていた頃でもあった。
そこにあのキースがソロを出すと聞いて、
ああ、これでほんとに解散なんだな…
という暗い気持ちの方が強くなっていた。
正直、誰がソロでやろうとも、ストーンズ以上のものは期待できないと思ってたし。
そんな思いで手にしたキースのソロアルバム『Talk Is Cheap』
1曲目の『Big Enough』が流れると、それまでの色んなモヤモヤが一瞬で吹っ飛んだ。
スティーブ・ジョーダンとブーツィーコリンズのスイングしたリズムにクールなサクソフォンが絡みつく、そして自らのソロアルバムなのに、いつもと変わらずカッティングに徹するいぶし銀のようなキースのギター。
しかも歌が上手くなってる。
踊らずにはいられない、このグルーヴ感。
これ、ミックが思わずタコ踊りしちゃうやつやん(笑)
嫉妬するミックの姿が容易に想像出来るほど、カッコイイ!
全身に鳥肌が立つほど興奮したのを、今でも覚えている。
ちなみにこの『Big Enough』は、30年経った今でも車でヘビーローテーションでかけまくっているくらい好きな曲だ。
そして2曲目の『Take It So Hard』のイントロのギターを聴いて改めて確信した。
ストーンズはキースのバンドなのだ。
『How I Wish』や『Whip It Up』、『It Means a Lot』で、これでもかとたたみかけてくるギターリフ。
このキース独特の間のカッティングリフはストーンズそのものであり、そしてこのアルバムの共同プロデューサーで全曲共作のドラマー、スティーヴ・ジョーダンがチャーリーワツツを尊敬し、そして敬意を表しているのがアルバム全体を通して伝わってくる。
更にミックテイラーが参加した『I Could Have Stood You Up』などは、敬愛するチャックベリーのドキュメンタリー映画『ヘイル!ヘイル!ロックンロール』がこのアルバムのきっかけになった事を想像させる。
そしてサラ・ダッシュとのデュエット・ボーカル曲『Make No Mistake』は、これも個人的に大好きなナンバーで、それまでのストーンズのアルバムでの歌唱からは想像つかないくらいにクールで、キースの渋いヴォーカルも素晴らしい。
『Big Enough』同様に、ヘビーローテーションで聴きまくっている曲だ。
このあと、92年にセカンドソロアルバム『メイン・オフェンダー~主犯~』をリリースしているが、『Talk is Cheap』が好きすぎて思い入れが強い分、個人的には今ひとつ印象が薄く、前作ほど聴きこんでいないのは単純に曲自体の好みかな。