1975年11月にリリースされた甲斐バンドのセカンドアルバム『英雄と悪漢』
演歌歌謡のようなヒット曲『裏切りの街角』が収録されていた事もあり、俺が高校生の頃にはそこそこ中古レコード店に出回っていたので比較的手に入れやすかった。
かなり安価で手に入れたこのアルバムは盤面に傷があり、3曲目の『光と影』の途中で必ず針飛びを起こすという、自分の中ではそういうアレンジなのだと思ってしまうほど聴き慣れてしまっていたので、後にCDで買い直して針飛びのないこの曲を聴いた時には素直に感動したのを覚えている(笑)
ライブでの定番曲『ポップコーンをほおばって』や、『東京の冷たい壁にもたれて』、『かりそめのスウィング』等の作品の完成度は特に素晴らしく、50年近く経った現在でも、ほぼ原曲通りのアレンジで聴かせられるほど秀逸であると思う。
しかもデビュー後にドラムを始めた松藤英男の音楽センスには技術うんぬん以前に驚かされるし、前作『らいむらいと』からわずか1年足らずでこのアルバムを完成させたとは思えない程のバンドの成長と変貌ぶりである。
そんなこのアルバムの中で、特に気に入っているのが意外にもB面の1曲目に収録されている『狂った夜』である。
60年代に活躍したジョン・セバスチャン率いるラヴィン・スプーンフルの『SUMMER IN THE CITY』からインスパイアされたのであろうこのナンバーは、甲斐バンドならではのもたつく疾走感(?)と転調後のノスタルジックなメロディーラインは聴けば聴くほど、スルメの様にじわじわと染みてくるのである。
当時のファンクラブ『BEATNIKS』の会報で定期的に行われていた好きな曲ランキングでも、ほぼ下位の辺りで、ライブでもほとんど演奏される事がなかった(出来なかった?)地味なナンバーなのだが、実は歌詞に出てくる『英雄と悪漢』というフレーズが、このアルバムのタイトルナンバーである。
『光と影』と『英雄と悪漢』
共に対局となるテーマでも、特に都会の影の部分を取り上げたナンバーが並ぶこのアルバム。
甲斐バンドは間違いなく、ここからスタートしたのだ。